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 あの子、とても脅えていた。いまにも崩れてしまいそうなほどに弱々しくて危うい感じだった。小動物を彷彿とさせる可愛らしくて小さな女の子だったが、びくびくしていてすぐに逃げ出しそうでもあった。きっと人見知りなのだろう。  詳しいことはわからない。けれど、あの様子は普通ではなかった。一瞥しただけでそう感じるほど立ち尽くし、切羽詰まった大変な表情をしていた。教科書を抱えたまま、だ。  助けてあげよう。そう思って、声をかけようとしたところその出番が訪れることはなかった。とても爽やかで優しそうな男の子が先に手助けしてあげていた。邪な人間には思えなかった。事実、彼に声を掛けられた彼女も話している内に段々と焦燥が抜け落ちていくのがわかった。表情が本来の輝きを取り戻していっているのが感じられる。きっと、彼なら力になってくれるだろう。  そうこうしている内に二人はその場を離れた。男の子に女の子が着いて行くような格好だった。察するに道案内――だろうか。  何はともあれ、彼女は救われた。と、そう確信していいかもしれない。  だがその行く末はやはり気になるところではあった。彼女のことを知っているわけではないが、尋常ならざる様相を呈していたのは確かだ。それが解決されたのかどうかは正しく推し量ることはできない。何より、事情が気になった。他人とはいえ、そこまでの蟠りが残るほど酷い有様だったのだ。  カフェテラスで自販機で購入した缶のカフェオレを飲みながらそんなことを考えていた。こそこそ後を追うなんてそんな真似はさすがにできないし、真相を突き止めるのは諦めた方がいいだろうか。まあ、彼なら大丈夫だろう。釈然とはしなかったが、彼を信じるしかない。  そう結論付けようした矢先に、だが事態は変わった。  その彼が何と戻ってきたのだ。しかも一人だ。彼女の姿はない。やはりどこかへ導いてあげたのだろう。それだけでほとんど真相は理解したようなものだが、やはり直接彼の言葉から説明が欲しかった。
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