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 缶をテーブルに置いて立ち上がった。そしてそのまま勢いよく彼のもとに向かった。 「ねえ!」 「うわっ」  突然声を掛けたばかりか驚かせてしまった。だがその驚き方がそこはかとなく可愛らしくも思えた。 「ああ、ごめんなさい」 「い、いえ。立花先輩。急だったものですからすみません」 「あれ? なんで私の名前知ってるの?」  確かに彼女の名は立花だ。立花逢。ただし、彼に名乗った覚えはない。それどころか会うのはこれが初めてのはずだ。 「いや、まあ……」少し逡巡するようだった。何かを言いあぐねている。そんな様子が垣間見えたような気がした。「先輩は有名ですから」  彼は何かを誤魔化すかのように相好を崩した。その正体は窺い知ることはできなかった。  有名。何も好きでそんな風になったわけではない。何か栄えある行動を興したとか、決してそんな殊勝な理由はありはしない。  彼女を有名にしたのは、ごく単純なことだった。それは彼女が、この学園で最も美しいと称されることに他ならない。そう、彼女の優れた容姿は特筆するに値する。立花は日本とイギリスのハーフであり顔立ちが端正に整い、その瞳には青い光が宿っていた。邦人の相貌だが外国の血が彼女の麗しさを絶妙に引き立てている。顔だけではない。背はすらりと高く、とても高校生とは思えないスタイルの良さだ。まだ一〇代でありながら、すでに大人の色香を漂わせすれ違う人を悉(ことごと)く虜にしてしまいかねない。だが彼女自身は、自分のそんな優れた容姿を鼻にかけることはしなかった。自分の容姿を見て浮き足立つのは相手の勝手だし、自惚れたくないという意志もあった。
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