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 それでもラブレターや告白を受け取った数は数知れない。また散った人数もそれに比例すると噂されている。男女別け隔てなく接する姿は印象が良く、しかしそのせいで期待してしまう男子も多かった。その難攻不落さもまた彼女を有名たらしめる理由に助力している。  とりわけ立花逢という人物は、差し詰め学園のアイドルとも言うべき誰もが憧れる存在だった。あらゆる憧憬の象徴。それが彼女だ。 「自分ではそんなつもりないんだけどねー」  彼の言葉に立花は笑って一蹴した。嫌な気分ではないのだが、望んでそうなった訳でもないのでこの手の話にはどう応えればいいのか難しい。 「それで、僕に何の用だったんですか?」 「あ、そうそう。ねえねえ君、名前は?」 「折原と言います」 「折原くんね。私は――ってもう知ってるのか」 「ええ、まあ」  互いに苦笑した。 「何年生?」 「二年です」 「そっか。宜しくね。それでね、折原くん。さっき女の子助けてたじゃない?」 「女の子? あの教科書抱えた子のことですかね?」 「そうそう!」 「まあ、助けたってほどの事でもないですけどね」  折原の口角が上がった。内心では照れているのかもしれない。年頃の男子が男女の事情を探られるのは照れ臭いものがあるのはわかるような気もする。 「君、なかなかやるね!」  立花は鷹揚に親指を立てて見せた。賞賛の意味だ。本心だった。人を助けることはどんなに簡潔なものでもそう易々と出来ることじゃない。それをさらりとやってのけた折原のことを勇敢だと彼女は評価していた。
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