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「いやいや、大袈裟ですよ」
折原は苦笑を再度溢した。謙虚な少年だ。その表情に嫌味は全くない。
「そんなことないと思うけど、まあいっか。それでね、あの子君が来る前からすっごく怖がっていてね。何かあったのかちょっと気になってたの。私が声を掛ける前に折原くんが助けてくれたから良かったんだけど……ねね、あの子何があったの?」
「ああはい。あの子、転校生らしくて教室を移動しなくちゃならなかったらしいんですけど、その場所がわからなくて困っていたみたいなんです」
「そうだったのか。転校生か。私はそういう経験ないからわからないけど、友達も最初から作らないといけないし大変そうよね」
立花は神妙な顔付きになり声のトーンを落とした。その転校生のことを案じると、確かに心細くなるのも無理からぬことだと思った。一人で初めての学校を彷徨するのは当惑して然るべきだろう。
「そうですね」
「それって、置いてけぼりにされたってこと?」
問題はそこだ。クラスに馴染めないというだけならまだ光明はある。それは時間によって解決されるだろう。だが疎遠になってしまえば彼女はこれから孤立して学校生活を送らなければならない。それは由々しき問題である。
「いえ、そうではないようです。今日は昼食を食べてお手洗いに行っている間に、運悪くクラスメイト達とすれ違いになってしまい、教室に戻った頃はみんな移動した後だったそうです」
折原は簡潔に説明してくれた。話の内容がわかりやすかった。
「なるほどー。でもそれなら良かった。あ、良かったってのは悪い意味じゃないよ」
「わかってますよ」立花の訂正に折原は小さく笑った。「クラスメイトの子達も彼女のことは気にかけてくれているみたいです。みんないい人だって言ってました」
「そうなんだ。それなら安心だね」
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