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立花は安堵感に包まれ、胸を撫で下ろした。事情がわかって何よりだ。なるほど、転校生というのは予想もしていなかったことだったが、重大な危機に直面しているのではと案じていた。しかし折原の話の内容からすれば今は確かに辛い時期かもしれないが、それは徐々に解決されていくだろう。
「はい。僕も偶然そこを通り掛かっただけなんですけど、琴吹さん――あ、それがその子の名前らしいんですけど」立花は了解という意味で大きく首肯した。「琴吹さんの様子がとてもじゃないけどおかしいと感じたので放っておけなかったんです」
「やっぱりねー」
「それからのことはさっき話した通りです」
「わかったわ。君、なかなかやるね。優しいんだね」
立花はにこりと笑った。素直な感想だった。人が困っている人に手を差し伸ばせるのはとても重要なことではないだろうか。それができる折原は彼女の中で一目置く存在になっていた。
「普通ですよ。だって先輩もそういう風にしたでしょ」
「それはそうだけど、でも何人もの人がその琴吹さんのことを素通りしてたよ。見て見ぬ振りって、あんまり気分が良いものじゃないね」
それもまた本懐である。カフェテラスは、もはやこの学校の生徒たちの要衝でもある。数えきれない人数が行き交うのに、彼女のことを気に掛けたのは折原ただ一人だ。誰もが知らぬ存ぜぬを貫き通し、人と関わろうとしない。それがとても寂しく感じた。
「そうですね」
折原は深く何度も相槌を打った。立花の気持ちに真剣に同調するようだ。
「なるほど」
立花は無表情で、ただじっと折原の表情を見詰めた。顔が小さくてよく見ると逞しい顔付きをしている。一見気弱そうな雰囲気があるが案外男らしいのかもしれない。琴吹に対する接し方から鑑みてもまっすぐな人間だということはわかる。
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