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「な、何ですか」  立花の射貫くような眼差しに、折原はたじろいでしまった。煌めくかのような紺碧の瞳。幾人もの男を惑わす蠱惑的な貌(かお)。それに直視されて冷静でいられる男は果たしてどれだけいられるだろうか。 「琴吹さんが君に懐いたのはそういうところか、と思って」 「な、懐いたって……別にそんなんじゃないと思いますよ」 「まあまあ。褒めてるんだよ」 「は、はあ。ありがとうございます」  感謝の言葉とは裏腹に、彼の表情は懐疑的だ。いや、恐らくは照れ臭いのだろう。 「とにかく、君のおかげで琴吹さんは助かったんだし、それで良いと思う。ナイスだよ」  立花は先ほどと同じようにもう一度親指を立てて見せた。 「そう言っていただけるのはありがたいですね」  折原は、今度こそ晴れた笑顔を見せてくれた。立花の称賛を素直に受け取ったのだろう。見ているこっちが安心させられる眩しい表情だ。この少年は、笑顔がよく似合う。 「うんうん。じゃあ、そろそろ授業始まるから、私行くね」 「あ、はい。あの……」 「ん? どうしたの?」  立ち去ろうとしたところで、折原は呼び止めた。その声色は緊張した響きが介在していて無視するわけにはいかないような気になった。 「先輩は、昼休みはいつもここにいるんですか?」 「ううん。今日はたまたま。いつもは教室で友達と弁当を食べてるよ」 「ああ、そうなんですね」  僅かだが、ほんの僅かだが、彼の言葉から力が失ったような気がした。余りにも些細な変化だったから単なる気のせいかもしれない。
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