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「それがどうかした?」
「いえ何でもないです。変なこと訊いてすみません」
「そう? 君はよくここにいるの?」
「いえ。僕も実のところたまたまなんです。本当に偶然なんですよ」
笑ってはいるものの、柔和だった表情が幾許か硬い。そんな気がした。
「そっか。そうなんだ」
「では先輩。呼び止めてすいませんでした」
「何で謝るのよ」立花は笑って応えた。折原が謝るなんて可笑しいと思った。「呼び止めたのは私よ。付き合ってくれてありがとね」
「先輩に呼び止められて嬉しくない奴なんていませんよ。これからもどんどん呼び止めてください」
打って変わり、今度は意気揚々と彼は宣言した。あたかも断じるかのように力強かった。
「あらま。じゃあお言葉に甘えちゃおうかなあ」
「是非、お願いします」
折原は悠揚に頭を下げた。ここまで潔いのならいっそ清々しい気持ちだ。たぶん無意識なのだろうが、彼は相手の機嫌を取ることが上手いのかもしれない。
「わかった。じゃあまた見かけたら声を掛けるね。君もだよ?」
「も、もちろんです!」
「わあ。良いお返事! じゃまたねー」
「あ、はい失礼します」
折原くん。彼の存在がこのときすでに、彼女の中で他の男子とはどこか一線を画す特別なものになりつつあった。少なくとも、別れてからでも彼のことを考えるくらいには。
また話したいかも。学園のアイドルは愉快にそう思った。
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