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「手厳しいなこりゃ」  呆れを通り越したと言わんばかりに、二人の遣り取りを見届けていた浅賀は笑っていた。彼の言葉は折原に告げたものだ。那央には敵わないといった意味がありありと窺えた。別段、彼は折原に訝しんではいないらしい。皆まで言わずともまるで理解し合っているかのような余裕さえ感じられる。 「何か文句ある?」 「いえ滅相もありません」言い終えるが先か、浅賀は即答した。「おい折原。しっかりしろ」  この掌の返しようはもはやさすがだと称賛に値する。長い物には巻かれろが彼の信条なのかもしれない。 「悪かったって。次の約束は必ず守るから」 「だから、何があったの?」  約束云々はいまは問題ではない。那央が問い質しているのは、この結末に至った原因だ。彼女には知る権利がある。  再度、那央と浅賀を待たせた理由を暴こうとしたところ、折原がその説明をすることは遂になかった。  まるで機会を図っていたかのように、その瞬間にチャイムが鳴ったのだ。昼休みの終わりを告げ、次の授業がもうすぐ始まるという意味のそれ。 「あーっ、チャイムが鳴ったなー。授業が始まるなー。早く席に着かなきゃなー」  誰に告げる訳でもなく、或いは那央にしっかりと言い聞かせるように、高らかに宣言にするようなわざとらしい鷹揚な口調でそう嘯き、それを皮切りに折原は逃げるように自分の席へ颯爽と戻った。 「逃げられたな」  浅賀がその遣り取りを面白がりながら、その一言を添えて彼も席に戻った。  くそ、逃した。タイミングがいいのか悪いのか、こればかりは諦めざるを得ない。どんな生徒もこの鐘の音には逆らえない。  那央は舌打ちをしながら自身も自分の席へ戻り、授業の準備を始めた。ジュースは必ず奢らせる、と固く誓ったのは言うまでもない。
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