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 あの人、一体誰なんだろう。  昼休み。多くの生徒が行き交う、一介の学校にしては瀟洒なカフェテラスでその現場は目撃してしまった。  白城悠(はるか)は軽く困惑した。見たこともない人と折原が話していたからだ。その人はとても綺麗な人だった。背筋が高く、華奢というよりは凛々しささえ感じさせる抜群のスタイルの良さは羨望の眼差しを禁じ得ない。また人形のように顔の造形が完成されていた。眼は大きく見開かれ、そこに宿る瞳は青く輝いていた。おそらく純然な日本人ではなく、ハーフだと思われる。その綺麗さには不覚にも溜息が漏れてしまう。  そんな人と折原は何を話していたのだろう。白城はそれが看過できなかった。気が気でなかった。衝撃、と言ってもいい。予想だにしなかった出来事に半ば混乱さえしたほどである。  初めて見るというのはそれほど問題ではない。問題はその人の綺麗さだ。見るだけで危うさが感じられ戦慄を覚えた。嫉妬、劣等感、屈辱、焦燥。とても一言では表現しきれない感情が押し寄せた。  同じ制服を着た人間が数多にも混在していようとも、白城は一目で折原の存在に気付くことができた。二人は中学からの付き合いでお互いに、少なくとも白城は折原のことを信頼している。いまはクラスは違えど、決してその存在を見誤ることはしない。白城の中で彼の存在はそれほど大きなものだ。  そしてまた、何やら楽しそうな雰囲気だった。そこには確かに二人だけの空間が生まれていた。他の接触や闖入は受け付けず、確立された二人だけの時間がそこにはあった。  白城は逃げるようにその場を離れた。とても見ていられる光景ではなかった。鼓動が悲鳴を上げていた。
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