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「そうですか。一人で帰るのかと思って不安になっちゃいました」
彼は愛想笑いをすることで精一杯だった。自分の気持ちを悟られたくなくて必死にひた隠しにした。気付かれれば果たしてどんな反応をされるのだろうか。気付いて欲しいはずなのに、それを知ることは本能的にも似た忌避感が彼を恐れさせる。
「もし、一人で帰るところだったら――」彼女は言葉の途中で一拍置き、彼の瞳を再びしっかりと見据えた。「――送ってくれたりしたの?」
悪戯めいた笑顔が、彼の胸を貫くには余りある鋭さだった。答えはもちろん、訊かれるまでもない。
「も、もちろんです!」
彼は即応した。それ以外の言葉など持ち合わせていないとばかりに。実際それは事実だった。彼女の頼みならば、どんなことでも叶えてあげたい。出来ることは手を尽くしたい。
「わあ! いいお返事。結構頼もしいかも」
本気にしたのかどう解釈したのかはわからないが、彼女の反応は悪いものではなかった。以前から、人に優しく明るい性格だったのは知っていたが、ここまで純然に嬉しそうな様子を見せられてはこちらも嬉しさで一杯になりそうだ。
「はい、お任せください!」
「良い子ね。その時は宜しくね!」
快活な声に、彼はますます彼女の虜になっていた。話す前よりも格段にその気持ちは大きくなっている。紛うことなく彼女の魅力に惹かれているのが自覚できる。
「わかりました!」
「オッケー! あ、そういえば君はこんな時間に何してたの?」
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