3人が本棚に入れています
本棚に追加
目的のものを購入し、一目散に彼女の元へと戻った。ここで初めて気付いたのだが、部活の疲れなぞすでに吹っ飛んでしまっていた。いつもならくたくたになって家に帰り、制服を脱ぐことすら億劫になりながらベッドへ飛び込むのに、今夜に限ってはきちんと着替えられそうだ。
「お待たせしました」
彼女にホットのお茶を渡した。手に触れた温度は、温かいというよりは熱いに近い感覚だったが温(ぬる)いよりはマシだろう。目的は飲み易さではなく、暖かくなってもらうことなのだから。
「ありがとう」
彼女の眼の光が大きく輝いていた。きっと、本当に嬉しがっているに違いない。
「これくらい、礼には及びませんよ」
「そんなことないわ。わたし、こんなに誰かに親切にしてもらったの、生まれて初めてかも」
いままでとは違う神妙な調子だ。言葉尻が深みを増していた。彼が与える優しさに、何かしらの影響を及ぼしているのだろうか。彼女は何かを想うように、ゆっくりとそう告げた。
「大袈裟ですよ」
「本音よ。どうして、そんなに優しくしてくれるの?」
どきりとする質問だった。余りに唐突なことに、彼はしどろもどろになった。
「い、いや。それは」
「ひょっとして、わたしのことが好きなの?」
今度こそ、言葉が完全に消失してしまった。この問いは、その真意には、どういう意味があるというのだろう。アプローチが過ぎたのだろうか。確かにそうとも捉えられる行動をしているのは確かだ。それほど親しい間柄とはお世辞にも呼べないのに、いきなり心配をかけ、あまつさえ彼女の為にと飲み物も買い与えている。これが好意ではなくて何なのか。これらをすべて正しく説明できる言葉はもう――たった一つしかない。
最初のコメントを投稿しよう!