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彼女が歩き去ってからも、彼はしばらくその場から動けなった。
確かに、部活の疲れなど忘れてしまっていた。訪れ始めている冬の寒さも意識の外だ。彼の胸の内でいま支配しているのは、激しい後悔と虚しさ、悲しみや痛みだ。それらの感情が、完膚なきまでに彼の感じうる意識を切り離してしまっていた。何も感じない。何もわからない。ただ一つわかるのは、フラれてしまった。ただそれだけが厳然たる事実だ。
考えてみれば余りに虫が良すぎた。彼女はただ話を聞いてくれていただけだ。それに調子に乗って受け容れてくれる、と勘違いしてしまった自分が何と愚かなことなのか。単純にも程がある。
「帰ろう」
誰に告げるでもない静かな独白だった。敢えて言葉にすることで、ようやく身体を動かすことができた。
やはり今日は着替えられそうにないな。そのまま眠りに就くのだろう。いやそうしたい。今日起きた出来事を、眠りによってさっさと忘却してしまいたかった。
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