あるバレンタインの話

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あるバレンタインの話

 鷲尾は自分の車のそばに立っている女性を見つけて、足を止めた。 「清水?」 「あ、きた! やっほー」  ひらひらと右手を顔の下辺りまであげて左右にふるのは、彼の知り合いである清水茉莉花という女子大生。 「てっきり現場で待ち合わせだと思っていたが」  車の鍵をあけながら尋ねる。今日の彼は非番、つまりは休みの日だ。 「現場っていわないでよ! 今日行くのはテーマパークだよ、ほら、イルミネーションしてるっていうやつ」  彼女は鷲尾の口癖を笑って今日の予定を繰り返した。  出掛ける約束をしていた―正確には宮地と成宮により約束させられた―二人だが、茉莉花は鷲尾の家を知っているため、ここまで来たのだという。
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