人を殺した

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「逆に生まれてくればよかったのにな、俺たち」  仰向けに寝転びがら少年マンガを読みふける理央(りお)が、思い出したようにポツリと言った。小学生だったか、中学校に入ってからだったか忘れてしまったが、彼はそういうことを突然言い出す性格だった。 「逆ねぇ……」  双子の弟の理央の言うことがわからないようでわかる気がした。僕らは双子だが二卵性なので顔はそれほど似ていない。僕は童顔で、彼は大人びた男らしい顔つきをしていた。僕は内向的で彼は外交的だったし、僕はちっちゃいけど理央はでっかい。運動も僕はイマイチだったが、理央は得意だった。  勉強は二人ともよくできたが、理央の方がもっとできた。なるほど、理央の方が圧倒的に得している気はするが、たまには童顔になりたいときもあるのかもしれない。  中学三年生のときだった。僕らは久しぶりに同じ帰路についた。双子だからといっていつも一緒に帰るわけではない。クラスも違えば部活も違うので、なかなか同じ時間になるということはないのだが、この日はテスト期間で部活もなかったため、たまたま一緒になったのだ。  その日はたいした雨でも風でもなかったが、梅雨のせいか空がどんよりと重たく、雲がペイズリー柄みたいな形に広がり、雨はしとしとと急き立てられるよう降り続いていた。雲だけならば趣のあるいい空だったと思うのだが、雨を伴うとなると気分は急降下。  ふと振り返ると理央がいなくなっていた。先ほどまですぐ後ろにいたはずなのに。まさかと思い、少し増水した川を見ると理央の青い傘が流されているのが目に入った。しかしその近くに理央の姿はない。どこだ、どこにいるんだ?  やっとの思いで見つけたとき、理央はすでに傘よりずっと奥の方へと流されていた。理央の表情はよく見えないが、川の隙間を探したみたいにみるみる吸い込まれていく。僕は何もできず慌てて近くの家に飛び込んだのだった。
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