幸と蘭丸

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 他人に興味がないせいか、高橋蘭丸という同級生がいることを二年生になって、今このとき初めて知った。この日以来、多くはないけど廊下ですれ違ったり、校舎ですれ違ったりするときは、向こうから声をかけてくれるようになった。 「よお!次体育?」  僕はいつも軽い会釈だけで勝手に申し訳なく思っていたが、向こうは特に気にしていないようだった。それにしても細い。あんなに細いのにバスケしてて吹っ飛ばされないのかな。バスケのことは詳しくないが心配になる細さだった。  理央が小学生のときバスケをしていたが、決して小さいわけではない理央でさえよく吹っ飛ばされて怪我をしていたのを思い出す。本人は全く気にせず楽しそうにプレイしていたが、見ているこちらの方がハラハラして心配になるものなのだ。  半袖シャツからどこまでも伸びそうな蘭丸の長い腕は真っ白くしなやかで、細いが確かに筋肉質ではあった。バスケットボールをすっぽり包み込みそうな大きな手は、指の先まで筋肉で埋め尽くされ、バネが弾むみたいな躍動感があった。吹っ飛ばされても怪我はしにくいのかもしれないな、体育館の床の上を跳ねるボールみたいな感じで。  ふと、理央が生きていたら好きなタイプだろうなぁと思った。線が細くて背が高い塩顔が好きだったし、性格も気さくなタイプが好きだった。理央は目鼻立ちがしっかりした彫りの深い男らしい顔だったので、やっぱり自分とは違うタイプがいいらしい。性格は理央も気さくだが、彼の場合はほとんど演じているものなので、本当は大人しくてそういう元気な男の子が憧れだったのかもしれない。いつも一緒にいた僕でさえ、理央がどこまで本当の理央なのか結局わからなかった。わからないまま彼は逝ってしまった。
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