理央

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理央

「優理さあ、賢斗のこと好きだよな?」  理央がしたり顔でそう聞いてきたのは確か小学五年生のときだったと思う。ただ単純に驚いた。 だって理央とはクラスが違うし、賢斗の話なんか一度もしたことなかったのに。 「黙ってるってことは図星だろ?」 「うん、まあ」  理央に隠しても無駄だとわかっていたのですぐに二回頷いた。 「わかるんだよなぁ。だって俺もあいつのこと好きだもん」  クラスが違っても、男の子たちは体育館やグラウンドでよく一緒に遊んでいた。でもだからと言ってそんな簡単にわかるものだろうか。双子だから?いや、双子だからって好みが違うことの方が多いと聞くが、思い返すといつも理央に好きな人が見破られていたような気がして、そのことを思い出してはっとした。 「そゆこと。俺らは好きなタイプが似てるんだよ」  僕の顔を見て察した理央は満足そうに笑った。 「いいよなあ、優理は。賢斗に告白できるもんな」 「しないよ」 「しようと思えばできるってこと」 「すれば?」 「俺が?俺がしたらキモいだろ」  呆れたように理央はため息をつき、眉間にほんの少し皺を寄せて微笑んだ。理央はこんなにかっこいいのに女の子にモテまくりなのに、女の子には全く興味がなくて男の子が好きだった。 「お前と代わりたいよ」 「代わってどうすんの」 「とりあえず賢斗に告白」 「かわいくないのに上手くいく?」 「女の子ってだけでワンチャンあるね」 「前向き」 「わかったら代わって?」  理央はからからと笑った。そんなことできっこないのを知ってるくせに、半分本気で言っていたことを僕は知っている。理央は女の子になりたいのだ。できるなら代わってあげたい。だって僕は女だろうが男だろうが順応して生きていく自信があったから。でも理央はできないと言う。女じゃなきゃダメだと言う。この違いは何だろうか。 「他には何もいらないのになあ……」  ボソッと呟いた理央の声を聞き逃さなかった。でも理解はできない。だって理央は小さいころから何でも持っていた。いっぱいいっぱいそれはもうたくさんのものを持っていて、いつも羨ましくて妬ましかった。だがただ一つ、理央が持っていなくて僕が持っているもの、それが「女」だった。
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