第3話 日常

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 しかし普段は生活の糧を探したり、治療をしたり、家事をこなしたりと時間がなく、また最近は法術を使って戦うと、よく体調を崩してしまうので、稀にしか訓練に付き合ってもらえなかった。『前はもっと稽古をつけてくれたなぁ。最近どうしたんだろう?』とジンは姉の体調を気にしていた。  法術が使えないので時間が空いたジンはミシェルと遊ぶことになっていた。昨日彼女を泣かせた罰である。 「しょうがねーなー」  照れ臭そうに言う彼はミシェルと約束した場所に向かう。一緒に家を出ればいいのではないかとジンは質問したが、『デートなんだからちゃんと雰囲気を味わいたい』との返事が返ってきた。そういうわけでこの前ミシェルが見つけたという街を囲う塀にあいた穴の前まで来た。『魔獣とかにこれがバレたら危ないんじゃないか?』などと思いつつ、15分程その場で彼女が来るのを待っていると小走りでミシェルがやってきた。 「ゴメンね。待ったかな?」 と聞いてきたので、昨日ナギに教わった通りに、 「いや、今きたところ」 しかしぶっきらぼうに答えた。こう答えることが姉曰く、デートの鉄則なのだそうだ。彼女に彼氏がいたという記憶はないのだが。彼女に言い寄る男は多かったが大抵の場合、断られるか、道の脇にボロボロの状態で倒れているのが見つかった。何で嘘をつくことが鉄則なんだろうと思いつつも、彼がそう言うとミシェルは嬉しそうな顔をする。 「それじゃあ、行こっか」  二人は目の前にある穴を通って街の外に出た。彼女はジンの腕に自分の腕を絡ませて、彼を引っ張って元気よく歩き始めた。目指すは、街の近くにある小高い丘だそうだ。ジンは恥ずかしがりながらも今日は、すべてミシェルの言う通りにしなければならないとナギに言われたことを思い出し、我慢した。  他愛ない話をしながら目的地に着くと、腰を下ろしゆっくりとくつろいだ。
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