第4話 異変の始まり

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 次の日ジンが目を覚ますと、既にナギはいなくなっていた。彼女が寝ていたそこには綺麗に畳まれた布が置かれていた。昨日見た夢の手前、少し不安になったジンは急いで一階に降りた。するとナギが診察室で治療しているのを発見した。それを見てホッとしたジンに気がついた。 「あ、ジン。やっと起きたの? もうお昼近いよ。 あんまり寝ていると牛さんになっちゃうんだからね」 「よう、ジン坊。悪いな、姉ちゃん借りちまって」  そう声をかけられて、治療してもらっている男の近くに、このスラムの元締めであるマティスがいることに気がついた。2mに届くのではないかという巨体と、筋骨隆々な体格、禿げた頭にダークブルーの瞳と、唇の上に生やした、同じくダークブルーの髭が印象的な男である。  彼はよく血塗れの男や女を連れてくるのである。その気っ風のいい性格から、スラムの多くの人々に慕われていた。噂ではどこぞの騎士であったという。確かによく見れば身体中に切り傷が刻まれている。そのためか、たまにジン達に稽古をつけてくれることもあった。また娼婦でありナギと同じく治癒師でもあったナギやジンの母親に惚れていたらしく、ジンたちにとりわけ目をかけてくれていた。この廃墟も彼が用意してくれた物である。 「しっかし、嬢ちゃんもアカリさんに似てきたなぁ。今いくつぐらいだっけか?」 「今年で16歳になります、おじさん」 「すると、ジン坊は7歳か? ガキが育つのは早いなぁ。歳はとりたくないぜ」 「ふふ……マティスおじさんはまだまだ若いですよ?」 「よせやい、そんなお世辞は。それにしても相変わらず嬢ちゃんの治癒の力はすげぇな」 法術を向けられている男に目を向けてそう呟く。 「まだまだお母さんには敵いませんけどね。そう言ってもらえると嬉しいです」 「いやいや、謙遜するなよ。もうアカリさんと同じぐらいじゃねえか? 十分すごいぜ。それにあの人に似て別嬪だしなぁ。嬢ちゃんの旦那になる男が羨ましいぜ。まぁ少ーし、アカリさんとは違うところがあるがな。」 そう言ってニンマリと笑いながら、ナギの胸を見やる。 「ちょっ! いい加減にしてください! あんまりそんなこと言うなら、治療の時おじさんだけお金をもらいますよ!」
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