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ナギの顔が一瞬にして真っ赤になり、両腕を胸の前で交差させる。そう、ジン達の母親は、その美貌とともにスタイルも抜群であったのだ。なぜかわからないが、娘のナギはその性質を受け継がなかったらしい。ジンは姉がスラムにいる娼婦達を見ては深い溜息をついているのをよく見かけている。最近では、ミシェルの胸を凝視していることもあった。胸の話はナギの前ではタブーであると言うのがジン達の共通認識である。
「ガハハハ、悪い悪い」
全く悪びれもせずにそう言うマティスを睨みつけながら、「まったくもう」と小さく呟いて、負傷している男に向き直り治療を再開した。
「この人、どうして怪我しているの?」
ジンはその光景を眺めながらマティスに尋ねた。先日会った男の言っていたことを思い出したからだ。この辺りで何かよくないことが起こるという。彼が言っていたのはこのことなのかもしれない。
「いや何、本当に数日前からなんだけどな。ヤバい奴がここらに住み着いたらしくてよ。そいつに喰い殺された奴が何人もいるんだよ。こいつは偶然その場から逃げ出せたみたいでよぉ。ただ俺が見っけた時には意識がなかったから犯人がどんな奴か、まだ詳しい話は聞けてないんだ」
「喰われた? 野犬か何かじゃないの?」
「それがどうも違うらしい。死体を見て見たらよ、全部人間の歯型だったんだ」
それを聞いてジンはゾッとした。この辺りに人を喰う人間がいるのだ。しかもそれが自分たちを襲う可能性もあるのだ。
「気味が悪いね」
「ああ。だから坊主達もあんまり外に出るなよ。少なくとも夜にはな。こいつは深夜に現れるみたいだからな。まあしばらくの辛抱だ。今俺と仲間達で犯人を探している最中だからよ」
「わかりました。絶対出ません。だからおじさんもあんまり無理しちゃダメですよ?」
2人の話にナギが入ってきた。
「終わったのか、嬢ちゃん」
「はい。かなり危ないところでしたがなんとか傷は塞がりました。それで、今の話は本当なんですか?」
「ああ、治療した嬢ちゃんならわかるだろう? あと、こいつはいつ頃目覚めるか分かるかい?」
「確かに人の歯型でしたね。いつ目が覚めるかはちょっとわからないです。どうします、このままうちで面倒を見ましょうか?」
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