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「いや、それには及ばねぇ。こいつを今度こそ殺そうとしにくるかもしれねぇからな。とにかく嬢ちゃん達はあんまり不用意に外にはでんなよ。外に出る時は最低二人以上で行動するように。分かったか?」
「はい」「うん」
二人の返事を聞いて満足げに頷くと、マティスは立ち上がり、ボロボロの寝台の上に寝ている男を担ぎ上げる。
「それじゃあな。また様子見に来るぜ」
そう言ってドアに向かって行った。
ジンがマティスの後に続いて行ったので、ナギはそれを見送ると治療のために使っていた道具を片付け始めた。
ドアの前でマティスは振り返ってジンを見下ろして、何故ついてきたのかすぐに理解した。そしてジンの頭に雑に手を乗せる。
「また今度稽古してやるからな。少し待ってろジン坊」
ニンマリと笑ってそう言うマティスを真似してジンも笑う。
「分かった、待ってる」
「おぅ、じゃあな。姉ちゃんのことしっかり守ってやれよ」
そしてマティスは空いた片手を軽く上にあげて、歩き去って行った。
それを見ながら、ジンは先ほど聞いた話を反芻していた。少し不安になったがマティスならいつものようにあっという間に解決してくれるだろうと思い、その気持ちを打ち消すように頭を左右に振った。
しかし、犯人は一向に捕まらず、犯行もぱったりと止んでしまった。マティス達がしばらく探し回ったが、結局誰の仕業だったかもわからなかった。回復した男も恐怖からか、記憶がおぼろげで具体的な情報を聞き出すことができなかった。そしてその事件は徐々にスラムの住人達の記憶から薄れていった。ジンも騎士の男から聞いた話をいつの間にか忘れていた。
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