第5話 真実

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「それでもどうにかしてお金を稼ごうとして、治癒の力を使って、表通りまででて、いろんな人を治療してお金を稼いだけど、全然足りなかった。でもある日、幸運が私の元に舞い降りた。あるとっても偉い貴族の娘さんがオルフェンシアに罹ったの。その子はこの病気が原因で死にかけていた。その貴族はその娘しか子供がいなかったから、その女の子をどうにか助けようとしてたの。それで光法術の中で禁忌の一つとされている【生命置換】にすがることにした。この法術はね、術者が持っている生命力を移し替えることができるの。でもこれにはその女の子と、とても似通った生命の波長をもつ人が必要だった」 「まさか!」 「そう。偶然にもそれが私だった。彼はこの法術をつかうと決心してから、多くの人を使ってその子と波長の合う子供を探し、偶然街で私を見つけた。屋敷に呼ばれた私は、彼に土下座して頼まれたわ。『どうか娘を助けてください』ってね。私はそれに応じる代わりにお金を要求した。お母さんと、ジンの二人分の薬が買えるお金をね。彼はそれを約束してくれた。その代わり私は命を差し出すことになった」 「薬は儀式が終わってからもらうはずだった。でも在庫がなくて…その人が取り計らってくれたけど、すぐに手に入ったのは一つだけ。もう一つは一週間後に届けられることになった。だから私はとりあえず手に入れたその一本を真っ先にジンに飲ませた。お母さんにごめんって謝りながら。ジンはお母さんより深刻で、あと1日も生きることができるかって状態だったから。お母さんもそれでいいって言ってくれて。でもお母さんは病気で死ぬ前に、魔物に変化し始めた。お母さんは私に何度も、何度も殺してって。私たちを殺したくないって、私に頼んできた」 「………」  ナギが沈痛な面持ちで話を続ける。その目には既に涙が溢れていた。 「だから私は、貴族の家に戻って特効薬の代わりに毒薬を用意してもらった。なるべく苦しまないで済むやつを。そしてそれをお母さんに飲ませた。お母さんは笑いながらありがとうって言って眠るように死んだ」 かすれるような声を絞り出すように彼女は話す。
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