第3話 日常

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 スラムの外の人間はたとえ子供であっても、ゴミを見るような目を向けてくる。それなのにジンたちに妙に礼儀正しい男は、軽く頭をさげると、さっさと行ってしまった。それを見ていたザックが二人に尋ねる。 「なんなんだあいつ? スラムの奥から出てきたよな。誰かに会いにきたのか? あとナディアって誰だっけ?」  彼が何者であるかはジンにもレイにもよくわからなかった。少なくとも彼が腰に据えていた剣が王国騎士のそれであったことから、ただの一兵卒ではないことだけはわかった。 「いや知らないよ。それにナディア様っていや、キールにいる5人の使徒のうちの1人じゃん。なんで知らないんだよ」  レイはザックの質問が当たり前すぎて呆れた。   この世界には現在確認されているだけで、20人の使徒がいるとされている。彼らは等しく強大な能力を持ち、国の最高戦力とされていた。中でも王国騎士団、近衛師団、法術師団を預かる3人の団長は、何れも使徒であった。 「つーか、相変わらずお前の髪と目って外の奴らには嫌われてんだな」  ザックが気楽に言う。外の人間は、どうやら彼の容姿を不快に思うらしい。初めは、なぜかはわからなかったがその傾向は表通りの人間や、貧しさから家を追われ、スラムに新しく住み着くことになった者たちによく見られるものだった。  ひどい時には「この悪魔め」と言いながら、石を投げつけてくるものもいるほどだ。以前、その中の一人の子供にジンが問い詰めたところ、どうやら悪神オルフェの容姿が黒髪黒目であるらしく、フィリア教徒にとって、その特徴を持つ人間は悪神に使えるものという認識があったのだ。そんなことを思い出してジンは少し不快な気分になったが、気を取り直して再び歩き出した。3人が家の前に着くとドアの前には鬼のような形相のナギが待ち構えていたのはいうまでもない。 「いってらっしゃーい」 と、にこやかに言うザックの笑顔を尻目に、うなだれたジンはトボトボと姉の前に歩を進めた。
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