第3話 日常

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 上半身を前のめりにすることで詰め寄る振りをして、その足が当たる前に右に飛び避け、すかさず右側から相手の体に双剣を向かわせる。ザックは完全に体勢が崩れており、その攻撃を防げない。しかし当たるか当たらないかという直前で『土壁!』という叫びとともにジンは大きくその剣を弾かれた。今度こそ本当にバランスを崩し尻餅をついたジンは恨めしげにザックを見上げる。彼の前には土を操り作られた、壁があった。 「おいっ。法術は使わないっていう約束だろ!」 「悪い、悪い。つい使っちまった。まあいいじゃねえか、レイだってやってるし」 「よくねえよ! 俺は身体強化だけしか使えないのに、身体強化だけていうルール無視されたら勝てねえよ。今は剣術の修行なんだから法剣術の練習は後でレイとしてくれよ。それにレイは身体強化が苦手だからその代わりに法術使ってるんだよ。しかもレイは法術のコントロールがうまいからいいけど、お前法術のコントロール苦手だから危ないんだよ。前にお前のせいで腕折れたし」  ジンは法術のどの属性にも適性がないらしく、法術を全く使えない。彼のような存在は『加護無し』と蔑まれる対象であった。これももしかしたら他者から不気味に思われる理由の一つかもしれない。フィリアの加護を与えられた人間は、得意な属性があるにしろ須らく法術が扱えるからだ。  しかし彼はどれも使えない。ナギの弟でなければ、早々に殺されていたかもしれない。その代わり彼はそれを補うほどに、闘気の扱いに長けていた。法術が使えないからこそ、その訓練を人一倍しており、現在では術が使えない不利を補っていた。特に自分の体の一部に気を集中させると言う芸当をできる者はほとんどがいないのだが、そのことをジンたちは知らなかった。  ジンはひとしきり文句を言った後で、ぶつくさ言っているザックを放置して、今度はレイと対決することにした。レイはレイピア型の木剣を持って構えている。彼は身体強化が苦手であるが、法術を織り交ぜつつ、とにかく正確で緻密な攻撃を加えてくる。その法術は正直に言ってザックと比べると格が違う。
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