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だが、季節は流れ凍てつく寒さに凍えながらも海を眺めるのは僕一人になっていた。あれだけ沢山いたカメラ小僧や、野次馬も次第に姿を見せなくなっていた。月光海月の噂も徐々に薄れ今ではその事を口にする人もいなくなっていた。それでも僕はこの海を見続けてる。僕にとってそんな噂自体どうでもよかった。ただ夢で出会ったあの海月ともう一度泳いでみたかった。その願いだけを胸に秘め今日も暗い浜辺に一人座る。
サラサラの砂はひんやりとしていて体を芯から冷す。その寒さに凍えながらも、ただ無心で水平線から伸びるムーンロードを眺めていた。すると……
おや?
いつも見ていたムーンロードにある異変が起きている事に気づいた。水面の上でゆらゆら揺れていたムーンロードの光がある浅瀬の一点に集光しているのだ。僕はもしかしてと思い立ち上がると、光の集まる方へと急ぎ足で駆けていく。胸が期待で膨らんでいく。僕は沈む砂を必死に蹴りあげ波の届く距離まで近づくと、躊躇いもなく海の中に入った。海水は刺すような冷たさだったが、その痛みよりもあの光の集まる場所で海月が待っていると思うとそんな冷たさなんて気にしてもいられなかった。海水の抵抗を受けながらも波しぶきをたてて海の中を進む。水面に反射する月光がキラキラと波を打つ。その波は僕が近づいている事を伝えるように集光する場所に返る。体が半分浸かった所で足を止める。そして目の前のそれを見た。それは夢の中で見た大きな海月とは違い掌に乗る程の小さな海月だった。
「なんだ」とため息混じりに肩を落とす。でもよくよく見ればその海月は、その小ささながら半透明の体の中でチカチカと強い光を放ち水中をゆらゆら漂っていた。
夢とは違うけどこれが月光海月……
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