月光海月

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月光海月は噂通り美しかった。月光海月の放つ光は、ミラーボールのように光の筋を作り出し海中のあちらこちらを照していた。その別世界の生き物のような幻想的に輝く海月を見て、一瞬ここが海の中だという事を忘れてしまいそうになる。 「なんて綺麗な海月なんだ」 僕は思った。この海月に触れてみたい。そして……喰らってみたい。 両手で御椀形を作ると海月に気づかれないようにそろりと海の中に沈めると、海水の冷たさに心臓がきゅっと締め付けられ痛くなる。でもその痛みこそがこの瞬間が現実である事を実感させてくれる。何とか手を海月の下に潜り込ませそっと掬い上げる。 水中から出た海月はより強い光を放つ。その光の眩しさに思わず目を瞑る。次に目を開けると海月は、ぶくぶくと泡を吹きながらも僕の掌の上で溢れかえり指の隙間からこぼれる。それは光の線となって海の中に溶けていく。その光輝く液体は渦を巻きながら自分の周りを囲むと外へ外へと広がっていく。辺り一面光の海に囲まれて初めて気づいた。僕の体が胸の辺りまで沈んでいる事に。その時僕は悟った。 あっ。そうだったのか。 「溶けていたのは君じゃなくて僕の方だったんだね」 僕の身も骨も全て溶けて光の渦の中に吸い込まれると体はそのままゆっくりと海中に沈んでいく。沈みゆく中で海面を見上げる。大きくなった君は優々と海の中を泳いでいた。それはまるで海の中の月のように、海中を明るく照らしていた。周りのサンゴや魚達もその光を喜ぶようにダンスする。周りを見回し思う。ここは僕がずっと求めていた夢の世界。 「あぁなんて綺麗な月なんだ」 僕はゆっくりと月に向かって手を伸ばす。その指先からキラキラと星が昇っていく。その星を君は喰らう。 あぁこうして君の一部になれるのなら…… 「僕は、このまま死んでもいい」
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