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「君はシロの友人? それとも家族?」
「何に見える」
「真面目に答えろよ。こう見えて本気で困っているんだ。君には想像できるかい、昨日までの記憶の一切を失った人間の心細さってやつが」
「分からないな。けど、そいつはお互い様じゃないか?」
「どういう意味だ?」
「そんなことより、そろそろ朝食にしないか?」
言われてみれば確かに、ひどく腹が減っている。
男に促され、部屋を出るとそこはダイニングだった。が、ここは先ほどの寝室と違い、壁にも床にも家具にもちゃんと色がある。木目調の床。カントリー風の家具。全体に落ち着いた印象の部屋。だが、やはり僕には見覚えがない。
「何だって僕の部屋だけあんなに白いんだ」
「君が自分で塗ったんだろう?」
「僕が?」
「正確には、昨日の君が」
ようやく得られた昨晩までの僕の情報。どうやら僕はDIYが趣味の男らしい。もっとも、今の僕はそんなものには興味のかけらもないのだが。
そんな僕を尻目に男はキッチンに立つと、慣れた手つきで朝食の準備を開始した。トースターにパンをセットし、フライパンで目玉焼きとベーコンを焼き始める。そのどれもが二人分の量で、しかも男の手つきは明らかにその分量での料理に慣れていた。家族にしろ友人にしろ、どうやら僕はこの男とはそれなりに長く暮らしているらしい。
やがてキッチンの方から、パンの焼ける甘い匂いが漂ってきた。
はどなくテーブルに並べられたのは、トーストされた食パンとベーコン、目玉焼き、サラダ、そして淹れたてのコーヒーだった。
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