206人が本棚に入れています
本棚に追加
「最初から知ってたんだ、ぼくのこと」
「……ああ」
「じゃあ拓海がぼくと仲良くなりたいって言ってくれたのも、好きだって告白してくれたのも嘘だったの。すべて母さんに仕返しするために、ぼくを傷つけるために身体を張ったっていうわけ」
わななく千瑛、口唇が震え頬に涙が伝う。
「だったら拓海の計画は成功だ。ぼく傷ついたよ。男に翻弄されて舞い上がるのを見て、さぞ愉快だっただろ。滑稽なぼくに満足?」
嗚咽を堪える千瑛、悔しげな口撃に拓海が反論する。
「おまえのそういうとこが嫌いだ。自分だけが傷ついたと思うなよ、俺だってずっと苦しんできたんだぞ」
立ち上がり千瑛の肩を掴み責める拓海。すべては嘘で固められていたと知り千瑛は絶望する。
「最低」
苦しい想いと儚く砕けた恋情が瞳から溢れ、掠れる声で吐き捨てた千瑛は拓海の手を振りほどき部屋を飛び出す。
「千瑛──っ」
するりと手から逃れた千瑛の背に呼びかけるが遅く、ふり返ることなく千瑛は玄関からすがたを消す。何事かと絢也が問いに現れたが、それには後で説明すると拓海もまた千瑛の後を追いアパートを飛び出した。
最初のコメントを投稿しよう!