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ほぼ9時ちょうどに後藤は会場に到着した。既に多くの就活生が待合室で待機していた。
後藤が待合室に入った瞬間、入り口付近にいた就活生全員の目線が後藤に集まった。
恐らく、新種の強烈なワキガの奴が来たと思ったはずだ。後藤のスーツのパンツの背面ではBENがその存在を主張していたが、濃紺の色が幸いしてそこまで目立っていなかったのだ。
待合室では椅子が縦横に規則正しく並べられていたが、一番後ろの列には空きがなかった。後藤はやむなく1番後ろから2つ目の列に座ることにした。
不幸なのは後藤の後ろの席に座っていた男だ。
最初、彼が後藤のスーツのパンツの背面にいるBENの姿を見つけた時、彼は、あれ?この人はチョコの上にでも座っちゃったのかな?と思ったはずだ。
しかしその直後にやってくる強烈なBEN臭により彼も事実を理解する。もちろんその背後にあるストーリーなどは知る由もないが。
後藤は強かった。
毅然として椅子に座り、名前を呼ばれるのをただただ待った。
後藤の近くにいた就活生の中にはあまりのBEN臭に席を離れるものもいたが、それでも後藤は動じなかった。
もともと到着が時間ちょうどだったこともあり、待合室に着いてから5分もしないうちに後藤は女性の面接官に名前を呼ばれて面接部屋に入った。
8畳ほどの面接部屋には椅子が二つと、その間に小さな机があるだけであった。
面接部屋に入ってすぐ、女性面接官はその異臭に顔をしかめた。
しかし、彼女は聞けなかった。
万が一ただの体臭だった場合に、後で就活掲示板などにでも書かれたら大変な問題になる可能性もあるからだ。
テレビ局の女性総合職として人一倍香りに気をつかっているであろう彼女は、本心としては1秒たりとも後藤と同じ空間にいたくなかったはずだ。
後藤は一通りの定型質問を受け、準備してきたとおりに確りと答えた。後藤はこんな状況でも動じない鋼の心臓を持っているのだ。
とはいえ面接官にも面接官の事情がある。やはりというべきか、予定よりもかなり早く面接は終了した。
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