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ぼくはまた、夢の中の彼女の家に遊びにきていた。空はくもり、今にも雨が降りだしそうな天気だったのを、わずかながら覚えている。そのとき、彼女が何か意味ありげなことを言っていた気がしたけれど、残念ながら彼女の言ったことが何かをはっきりと語れるまでには、ぼくの意識ははっきりとしていなかったんだ。ただ、そのときに彼女が言った言葉の中で、これだけはしっかりと覚えている。
ああ、チョコのなる木が歌っている。
チョコのなる木なんて、この世の中にないよ、それに、木は歌ったりなんかしない。そのときのぼくは、笑顔でささやく彼女に向かい、シンケンな顔して断言したんだっけ。
夢の中の彼女の家は、とても貧相な作りをしていたけれど、彼女も彼女のお父さんお母さんも、彼女の多くの兄弟姉妹たちもみんながみんな、とても意思の強い目を持っていた。夢の中とは思えないほどに、その意思の硬さがぼくの胸をつらぬく感覚をリアルに味わった。
苦い。この味。まだまだ子どもでいたいぼくの口には、ぼくの心には、苦すぎるほどのビターチョコ。
この国に閉じこもっていると、海の向こうはまるで、はるかかなたの銀河系の出来事のようだ。いや、そういう表現は的を射ないものなのかもしれない。まるでこの国自体が、この国に閉じこもるぼくたち自体が、この地球上では地球外生命体なのかもしれないな。
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