チョコのなる木

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 はあ、とぼくは大きく息をはいた。チョコレートの苦さはとっくに消えてなくなっていたけれども、ぼくは悪夢(あくむ)の中のように、その苦さに追いかけられて、()げまどっていたような気がする。もう一度、夢の中に入りこむ。せめて、悪夢の中で二重(ふたえ)に眠ったあと見る、心地(ここち)よい夢の中で、ずっと遊んでいたいなあと思ったんだ。そう、あの女の子といっしょに、ずっとままごと遊びをしていたい。  ままごと遊びなんかじゃない。あたしたち、これで(かせ)いで、やっと生きのびているのよ。  突然(とつぜん)、その女の子の強くさけぶ声が聞こえた。ケレパクパイ・ベナのように虹色(にじいろ)に輝く衣装(いしょう)を身にまとった彼女は、その強いまなざしをぼくに向かって精一杯(せいいっぱい)投げかけたのだった。ぼくは、少し自分がはずかしくなった。  チョコのなる木が歌っている。  まただ、また彼女の歌うようにささやく声が、ぼくの夢の中で聴こえた。いや、彼女の夢の中かな。それとも、彼女の現実の世界でかもしれない。とにかく、ぼくはまた、それはどう見てもチョコじゃないと思ったんだ。緑色や黄色のそれは、どう見てもチョコレートには見えなかった。ぼくはただ、心の中で抹茶(まっちゃ)チョコやバナナチョコじゃないんだから、とちょっと思ったけれども、くだらなすぎる冗談(じょうだん)をぼくは彼女に言う気にはなれなかったのだ。
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