チョコのなる木が歌っている

チョコのなる木

　ハハハハハ、すまんね。これはコーヒー豆チョコレートだよ。16歳のきみにはちょっと早かったかな。ハハハ。コーヒー豆もチョコレートもベネズエラ産でね。私のお気に入りなんだよ。

　ベネズエラ。母さんの今取材に行っている国。そして、あの娘(こ)のいる国だ。

　どうしたんだい。そんな、恋にやぶれたみたいな顔をして。え、ワカゾウくん。

　マスターがまたからかってくる。ぼくは少しむっとした顔を作って、マスターに対してこう返した。

　恋にはまだ、やぶれていないよ。これからだよ。これから。

　そう。まだはじまってもないけれど、こんなにもかけはなれた恋が実るかはわからないけれども、これからなんだよ。ぼくはシンケンな顔して、心の中でそう自分に言い聞かせた。

　うーん、よくわからないが、恋せよワカモノ。ハッピーバレンタイン。チョコもらえるようにがんばれよ。

　マスターの言葉を聞いて、やれやれと思ったけど、ぼくは言葉をサンドイッチとカフェラテといっしょに飲み込んで、ただごちそうさま、と返事をした。