来ない勇者様

1/11
764人が本棚に入れています
本棚に追加
/680ページ

来ない勇者様

この牢屋に入れられて、7日目の朝が来る。 着替えがない。風呂にも入れない。 少し、自分のドレスを匂ってみる。 クンクン、一応まだ、臭くはない。 いや、でも自分の体臭って、自分ではわからないって言うよね。 ちょっと尋ねてみようか。 「ねぇ、リアム、私の……」 「臭くはないです、かろうじて」 リアムがこちらを見ずに、答える。 彼は石畳に書いたマス目を使い、一人丸バツゲームにいそしんでいた。 「よくわかるね。私が言おうとしたこと」 「当たり前でしょう。何年あなたの執事をやってると思ってるんですか」 淡々とした返事。 彼のキャラはこのような非常事態でも全くぶれない。 私に伴い牢屋に閉じ込められたはずなのに、彼の耳にかかったサラサラの黒髪は、未だに美しいキューティクルをつやめかせている。 一方の私は7日間手入れしてないだけあって、もうボサボサ。この差はなんだろう? そんな彼を横目で見ながら、ふと尋ねてみる。 「ねぇ、それ、面白い?丸バツゲーム」 「まぁ」 「……この生活、いつまで続くんだろうね」 「さぁ」 「もしさ、もしずっとこのままだったら……」 そこまでつぶやいたところで、リアムが急に立ち上がる。 「あぁ、黙って聞いていれば!うるさいですよ!姫!  私は今、忙しいんです!!」 声におののいた私は思わず後ろ手を床に付き、すぐさま早口で「ごめんなさい」と謝った。
/680ページ

最初のコメントを投稿しよう!