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来ない勇者様
この牢屋に入れられて、7日目の朝が来る。
着替えがない。風呂にも入れない。
少し、自分のドレスを匂ってみる。
クンクン、一応まだ、臭くはない。
いや、でも自分の体臭って、自分ではわからないって言うよね。
ちょっと尋ねてみようか。
「ねぇ、リアム、私の……」
「臭くはないです、かろうじて」
リアムがこちらを見ずに、答える。
彼は石畳に書いたマス目を使い、一人丸バツゲームにいそしんでいた。
「よくわかるね。私が言おうとしたこと」
「当たり前でしょう。何年あなたの執事をやってると思ってるんですか」
淡々とした返事。
彼のキャラはこのような非常事態でも全くぶれない。
私に伴い牢屋に閉じ込められたはずなのに、彼の耳にかかったサラサラの黒髪は、未だに美しいキューティクルをつやめかせている。
一方の私は7日間手入れしてないだけあって、もうボサボサ。この差はなんだろう?
そんな彼を横目で見ながら、ふと尋ねてみる。
「ねぇ、それ、面白い?丸バツゲーム」
「まぁ」
「……この生活、いつまで続くんだろうね」
「さぁ」
「もしさ、もしずっとこのままだったら……」
そこまでつぶやいたところで、リアムが急に立ち上がる。
「あぁ、黙って聞いていれば!うるさいですよ!姫!
私は今、忙しいんです!!」
声におののいた私は思わず後ろ手を床に付き、すぐさま早口で「ごめんなさい」と謝った。
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