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グゥゥゥ……。
ふわりと優しい味噌の香りを、鼻先に感じたお吉の腹の虫が盛大な音を立てた。
ええっ?!
お吉は、慌てて、ぐっと両腕を絡めて腹を抱えた。
「へえ。やっぱり肉体があると、本当に腹が減るもんなんですねぇ」
隣に座る宗太郎が、どこか物珍しそうに目を輝かせる。
「ち、違うよ! これは、ただ……」
しかし、言いかけたお吉の口を塞ぐように、再び彼女の腹が盛大に鳴く。
「遠慮なんか要らないよ」
老和尚が、にこやかに言った。
しかし、まさか自分の腹が減るとは思ってもいなかった上に、自分の分も食事が用意されているとも思っていなかった。
それだけに、お吉の戸惑いは広がるばかり。
だが、そんな彼女を隣に、食事を始めた絵実は不思議そうな目を向けてきた。
「何か食べられない物でもあった?」
い、いや……。
呟くように言いながら、小さくかぶりを振る。
そしてお吉は、目の前で湯気をあげる味噌汁に困惑の目を落とした。
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