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けど、だからって、さっきみたいにタダ飯を貰い続けるわけにもいきゃしない。
我知らず、太い息が再びお吉の口元を抜けかけた時、彼女の視界にフラリと人影が入ってきた。
ほとんど反射的に、お吉の目はそれを追った。
しかし、
「なんだ、新顔か」
つまらなそうな声が、ボソリと呟く。
ところが、それにハッと振り返った中年男は、お吉と同じくまったくの死装束。
だがお吉は、口を開きかけた男の言葉を遮るように、面倒臭そうに徳鎮のほうへ顎をしゃくった。
「当人なら、あっちだよ。ほら、あそこで掃除して……」
しかし今度は、お吉の言葉を遮るように中年男の声が被さった。
「わたしが見えるんですか?」
はあ?
思わず鼻で笑いかけたお吉は、慌ててそれを呑み込んだ。
「あ、あれ……?」
お吉の視線が、吸い込まれるように新顔の足元に釘付けになる。
「お前さん、もしかしてまだ死んだばかりかえ?」
そこに浮かぶ彼の影は、まるで遠い灯りに映る影絵のようにぼやけている。
しかも、優衣のように自殺霊特有の生々しい死因の痕跡も見受けられない。
しかし、お吉の問いにひどく驚いた様子の男も、「どうしてそれを……」と思わず言葉尻を消した。
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