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本当は、一晩中、仙人の目覚めを待つつもりだった。
しかし、さすがに眠ったばかりなので、当面は起きないと言われれば、もう道は一つ。
帰るしかない。
それで、富士見櫓を後にしたお吉たちは、とっぷりと日の暮れた街の中を、連れ立って本郷へと向かいだした。
そして、「それにしても」と、お吉は思う。
まったく夜だってのに、気味が悪いほど明るいねぇ。
まるで、どこもかしこもが話に聞いた不夜城、吉原にでもなったようだ。
そんな事を胸の内で呟き、お吉は、明るく照らし出される辺りに訝しげな目を向ける。
そしてその目を、隣の宗太郎にスルリと移した。
気味が悪いといやぁ、コイツもだよ。
帰路に付いてからというもの、ずっとこのニヤけ面を引っ提げたまま。
そんな優男に、お吉は口元を歪めた。
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