第一章・―遺品整理―

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 つい先日、昨日までは元気だった父が突然倒れ、そのまま帰らぬ人となった。    悲しみに明け暮れる母と比べ、あまりに突然の出来事に、なかなか実感の湧かない私は、涙の一つも流せないでいる。    そういう私を、他人は白状だと云うのだろうか。大人になるまで、成長するまでは親の庇護の許ぬくぬくと暮らしてきた癖にと云うのだろうか。    然しながら、泣く、という行為が本当に亡くなった相手のためになるのかと云えば、甚だ怪しいところである。    身近で大事な相手が亡くなった時、生きている人間が泣くのは、勿論死を悼んでの事であるが、そこには多分、ほんの少し自分のためという要素も加わっている。    大体の人は、悲しい事や辛い事があっても、泣けばすっきりするものだ。    これは誰にでも通用する理屈ではないが、別に涙でも何でも良いから、体内から排出する、という行為が身体にストレスを与えない発散法だから。そう誰かから聞いた覚えがある。    必ずしも泣かなければいけない訳ではない。そういう法律など制定されてはいないし、ただ、もし泣かなかったとしても、自分がひたすら気まずいだけなのだろう。   だから、感慨が湧かない分余計に私は泣かない。その代わり、見たくないという母に頼まれて父の遺品を整理している。    ごちゃごちゃと、父の自室に置かれたがらくた。……否、父にとってそれらは確かに宝物の山だった。    いつの時代に書かれたものか、どんな内容なのか、詳細が一切不明の、書物の数々。ブリキの玩具から始まるアンティーク、骨董品、屏風や掛け軸のようなものまで……。    無知な私には、これらをどう処分すれば良いのか理解らず途方に暮れる。無論、物の価値など分かりよう筈もない。    取り敢えず、父が愛用していた書斎机から片付けようと手を伸ばす――。
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