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先程まで下着に広がっていた灼熱は急激に熱を失い、今はただ冷たく肌に張り付いている。そのベットリとした感触に嫌悪感を感じ露骨に顔を歪める。
血気盛んな中高校生ならば、何かの拍子に暴発することもあり得るだろう。しかし、三十二歳にもなった大人が仕事中に起こす過ちにしては幼稚すぎる。
「――古崎さん。庶務には戻らない旨を伝えておきましたから大丈夫です。行きましょう……」
二人分のコートと鞄を持った仁が抱き起すように圭志を支えた。その肩につかまって、まだおぼつかない足取りでフラフラとコピー室をあとにする。
なるべく他のスタッフの目につかないように、圭志を庇うように立ち位置を変えた仁の優しさが嬉しくもあり、悲しくもあった。
毎日のように「愛している」と想いを告げる彼に対して、何の関心もないような顔で受け流し続けて来た報いなのだろうか。
でも――。出来ることならば素直にその腕の中に飛び込んでいきたいと思った。その足を動けなくさせているのは、絡みつくように纏わり続ける忌まわしい過去。
嘘は嘘でしかない。その嘘を彼が知った時、すべてが終わる――。
圭志はその恐怖で再び足がすくむのを感じていた。
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