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守れなかった詩
送り出されるのは一人の男。
海の向こうで自分の国を守る戦いに赴くため、彼は英雄として故郷を発つ。
見送りにはたくさんの人々。
親。友達。恋人はキスの嵐で無事を祈ってくれた。
海への船出には国の王も彼を見送る。
王は言った。
「私も一人の国民とて、君を英雄と褒め称えよう。喉が枯れるまで! 君の姿が見えなくなるまで!」
彼は国民たちに笑顔で応え、内なる恐怖などおくびにも出さず手を振り返す。
彼は旅立った。
そして戦場におり立った。
彼は幾百もの戦を生き延びてきた英雄。戦場でも手厚い歓迎を受ける。
兵士は言った。
「ああ。戦の神に愛された英雄よ。私たちはあなたを信じこれから戦っていけます」
彼は兵士たちに笑顔で応え、明日死に絶える不安を感じさせないよう手を振り返す。
彼は剣を手に取った。
死にたくなかった。小さいころから死への恐怖に怯えていた。
昔、飼っていた黒猫が死んだ。綺麗な艶をした毛並みを持った猫だった。だが死んだ。
なぜ生きているものは死なねばならないのかと、ずっと生きていくことは出来ないのかと涙を流した。
そして彼は成長し、青年になり。戦に出る年になる。
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