守れなかった詩

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 死なずにいるためには強くならなければならず。  死なずにいるためには自分を死に追いやる相手を殺さねばならず。  気付けば背中に何かが「付いて」いた。  それは最初、小言を言うときの親の説教顔で、そして笑顔だった。  そのうちその笑顔の数は増えていく。  友達。先生。隣人。子供。恋人。  この笑顔は口々に言う。 「あなたは私たちを守ることが出来る」  死なせたくなかった。帰ってその笑顔に会いたかった。  彼は走り出した。  黒い影が走るように、幾人の人間が立ちはだかろうとも彼は止まらない。  大声を出して、剣を振り上げ、彼は叫ぶ。 「守りたいんだ。守らせてくれ」  自分の命を奪う、敵のその腕が、足が怖かった。自分を殺したいと訴えるその目に怯えていた。  彼は英雄だった。  その弱い心を幾千の力で無理やり押さえ込み、敵陣に切り込んだ。  その勇ましい姿に兵士たちは意気を上げ、口々に叫ぶ。 「見よ。我らの先陣をゆくあの雄雄しい姿を。彼は英雄だ。我らの英雄だ」    戦は彼の国の勝利に終わりそうだ。  それが彼の望み。  ―――だが本当に彼はそれを望んだのか?  先陣を切って人を殺し、一番絶望的な場所で殺し合いをすることが彼の望みだった?     
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