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それはわからない。彼自身に問いを投げたところでそれは同じことだろう。
―――東から幾万の兵士の姿が現れた。
見たことのない兵装。武器。力。威力。
瞬く間に劣勢だった英雄の敵国兵が爆音とともに爆ぜ、消えうせる。墓に埋める骨も残さず。
敵かどうかはすぐ知れた。
敵国兵が全て消えうせた後、見たことのない彼らは彼の国の兵士を同じように爆音と共に光の彼方に飛ばし消す。
敵だった。戦わなければならなかった。
知っていた。あれは自分たちのかなわない敵。
相手がやめるまで終わらない一方的な虐殺。今から始まるのはそれなのだと。
それでも彼の背中には幾万の笑顔。
彼は走り出した。
次々倒れる兵士、立ち尽くす兵士、泣き崩れる兵士、逃げる兵士。
一人彼は走っていた。気付けば誰もいなくなった。
最後に言葉を交わした老兵はこう言った。
「引くも勇気です。許しを請いなさい。あなたが選んだ道なら、私達はそれに付いて行きます」
彼はその言葉を希望に走り続けた、自分が倒れれば消える幾万の笑顔を付き従わせ。
音速を超えるつぶてが彼の肩を貫き、稲妻のような砲撃が彼の左腕を奪おうとも。
彼は走り続けた。
彼の願いは届いた。
彼は満身創痍の体を敵の将兵の前に横だおさせながら、懇願した。
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