守れなかった詩

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「負けを認めます。わが国はあなたたちに従います」  将兵は頷き、立ち上がった。  鳴り響く鐘の音。空の青に似た清んだ音色。綺麗だなと彼は呟き意識を閉じた。    彼の国は負けた。  それを知り、彼の国の王は、国民は、  彼を憎んだ。  兵士は全員死に、彼だけが残っていた。  命乞いをしたのだと蔑んだ。  生き延びた兵士達は国に帰らなかった。逃げ出した自分が責められるのを恐れて。  片腕になった彼は石を投げられ罵声を浴び、親や恋人から「恥知らず」と拒絶を受けた。  彼は何も語らない。自分は兵士達を守れなかった。彼らの家族や恋人達を思えばと耐えられた。  何より国は守られた。幾万の笑顔は自分の世界からは失われたが彼らの世界では生き続ける。  彼は羽を休めるように、暫しその体を横たえた。    牢屋に入れられた彼の耳に絶望的な知らせが入る。  戦場を知らない国民達があの見知らぬ国に再戦を申し込んだ。  彼はろくな治療を受けていない体を奮い起こし、脱走を決行した。  彼は走った。  あなた達は自らを死地に追いやっている。はやまってはいけない。  彼は叫び、だが返ってくるのは蔑みと罵声。 「臆病者がいるぞ、くたばりぞこないの疫病神だ」  警備隊に追われ、彼は国の外へ追放された。       
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