守れなかった詩

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 消えようとする幾万の笑顔。  彼は叫ぶ。彼の頬に神と己の雨が降り落ちるが構わずに。 「守りたいんだ。守らせてくれ」  崩れ落ちる過去の英雄。そして、  彼の目の前に光が降りた。  後にその様子を知ったものはその様をこう表した。  ―――起こってはいけなかった奇跡。  光りだした自分の目前に彼は、顔を上げ、そこに立つ奇跡をみつけた。  光るのは剣。手をとり知る。これが見知らぬ国に対抗する最後の手段。  ―――最悪の手段。  強力なその力。一振りで幾千の敵をなぎ倒す。  代償は彼の存在。全てが、世界の記憶からさえも消えうせる。    何を思う。  何を考える、英雄でもない今じゃただの人間が。  剣とり、歩き出す。  ほら引きずっている、ろくに歩けもしないじゃないか。  何があるんだ?  そら、そこにはお前の絶望しかない。  新しい世界がある。別の国で暮らせばいい、もう休んでいいんだ。    彼は走り出した。  再度戦場には幾万の見知らぬ敵。  対するはただの人間がただ一人。  全てを捨て、もう自分と関わりのなくなった笑顔を守るとほざいている馬鹿な人間がただ一人。  見知らぬ敵が彼を見つけ、そして笑い出した。     
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