零れ落ちる鱗

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零れ落ちる鱗

 サイコパスは、世界が変わる瞬間に立ち会った。  今まで映ることのなかった景色が目の前に広がり、近くのものはもちろんのこと、遠くに立ち並ぶ山のシルエットさえもよく見える。  美しい……!  サイコパスは、涙を零した。  こんなにも世界が美しかったなんて……。  こんなにも美しい世界が存在していたとは露知らず、私の目はいつでも、曇っていた。  右も左もわからない未熟者で、上も下も見極められない愚か者だった。  困惑の表情を浮かべて「わかりません」と答える毎日。その相手をする者はいつだって「そうですか」と失望していた。  私は……心底、惨めだった。  そんな自分が嫌だった。  だが今は、この美しい世界を見ることができている。  あの頃の自分に戻ることはもうない。戻る必要なんてない。  今はもう、見えているんだ!  この目に、この瞳にぴったりとフィットし、もう2度と離さないとばかりに……。  サイコパスは、自分の肩に触れる誰かの手を払いのけた。  誰にも邪魔はさせない……! 誰にも、奪わせやしない!  何日だって、何週間だって、何年だって……いつまでもここで美しい景色を見ていたい!  この景色は、この美しい景色はすべて自分のもの。  ……失いたくない!  しかし急に……  唐突に目が痛くなる。  あれ……どうしたんだろう?  景色がぼやけてくる……。痛い……。  美しい世界は……どこへ行ってしまったの……?  サイコパスは、瞳から零れ落ちる鱗に涙した。  再び、肩に誰かの手が触れる。  やめてくれ! ほっといてくれ!  どこ……!? どこにいったの……!?  美しい……景色が見えないよ……  すると、再度手が肩に触れた。今度は、しっかりと。 「お客様! お使いのコンタクトは1dayですから……!」
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