愛を知る

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愛を知る

 頭の中を覗いてみたいと思った人はどれほどいるんだろうか……。  君はどう? あなたは?  他の人がどう考えているのかどうかは知らないが……  サイコパスは、毎日考えている。  頭の中を、脳みそをこの目で直に見たいと思ってる。  長年付き合いのある友人の頭を、つい先日付き合いだした彼女の頭を、僕はかち割りたいと思ってる。もしくは鋸で丸く切り開いてもいい。  そうやって、真っ赤に染まった脳みそをこの目で確かめたい。  …………  …………  …………  頭の中を覗きたいと考え出したのはいつ頃だろうか……。  サイコパスは、過去に遡る。  おそらく初めは、「愛」について考えていた時だろう。  きっとそうだ。きっかけをくれたのは、彼女だった。    18の時、学校一可愛い女の子に告白された。「好きです……!」と言ってくれたその女の子の頬が恥ずかし気な赤色で染められていたのをよく覚えている。  僕は純粋に、嬉しかった。  その子は本当に可愛いく、笑顔が素敵で、裏のない性格に惚れる男子高生が続出する理由も頷けた。  だから僕は、その子の想いに答えた。  誰もが羨む女の子に「好き」と言われ、撥ね退ける理由などどこにも見当たらなかったんだ。  しかし結局……  サイコパスは、困ってしまった。  しばらくした後、彼女が駅のホームでこんなことを聞いてきた。  僕の腕に細い腕を絡ませながら、あの時のように顔を赤らめて。 「私のこと好き?」  僕は何も考えず「うん、好きだよ」と答えた。その答えが彼女を喜ばせると知っていたからだ。  でも彼女は、その答えだけでは飽き足らず、今度は…… 「愛してる?」  僕の瞳を覗き込んだ。  輝く大きな目に、期待を膨らませながら。  僕はそんな彼女の目を見て、固まってしまった。「え?」と小さく零した自分の言葉に、僕の思考回路は動きを止めた。  どうしてすぐに言葉が出なかったのか、どうしてすぐに彼女に「もちろん」と答えてあげられなかったのか、僕には分からなかった。  嘘だとしても、言ってあげれば彼女が喜ぶことは分かりきっていたのに、どうしてか言葉が詰まった。  だがほどなくして、その答えは自然と出てきた。  僕は彼女を、愛していなかったんだ。  彼女に対して抱いていた感情は、「愛」ではなかったんだ。  そんな単純な、簡単な答えだったんだ。  でもそうすると、また一つ、僕の頭の中には疑問が生まれた。  そもそも、「愛」とは何か……?  サイコパスは、知らなかった。  「気になる」「好き」「大好き」「愛してる」おそらくだが、人に好意を寄せた時の表現の大小はこの順で間違いない。  つまり最大限の愛情表現、それが「愛」。僕はそのように認識していた。  でもその「愛」とは、いったいどういった気持ちなんだ……。  誰かを好きになる気持ちと愛する気持ちの差はどこにあるのか……。  サイコパスは、再び頭を悩ませた。  悩んで悩んで、人を愛するということが何かを考えた。  悩んで悩んで、彼女に対する想いを自問自答した。  すると……  サイコパスは、ある考えに辿り着いた。  「好き」とは、その人の好きなとこしか見たくない、こと。 例えば、好きな人の悪いところを見て幻滅することがあるとする。実際にそうだろう。部屋が汚かったり、食べ方が汚かったりと、嫌なところが垣間見えた瞬間に冷めることはよくある。  それが「好き」ということだ。  でも「愛」は、違うんだ。  好きな人のすべてが好き。他の人が見れば変だと思うところも、直した方がいいよと指摘されるようなところも、その人の好きなところも嫌いなところも、そのすべてをひっくるめて好きになる。  それが……「愛」。  サイコパスは、答えを見つけた。  そしてさらに、考えを巡らせた。  人を「愛」する。それは、好きなところも嫌いなところも、すべてを知る必要があるということ。それは最終的に、その人の頭の中を見なくてはならない。文字通り、脳みそを、この目で。  愛するためには、その人の今までの記憶を、思考を、趣向、好み、癖、そのすべてを知らなければならない。そして、その人を本当に好きなのか、愛しているのかを見極める必要がある。  好きな人の脳みそを見ても、嫌悪を感じないのかどうか……それも大事だ。  だから僕には、彼女の頭の中を見る義務が……  そうして初めて、彼女の問いに答えられる。  愛しているのか……  そうじゃないのか……  頭の中を覗いて、脳みそを見て、彼女を知らないと……  サイコパスは、脳みそから、愛を知った。
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