1 カラス

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 大陸でも小国の部類になるルーツファイル公国の中の一地方都市、ラウルは決して安全な街とは言い難い。公国そのものが小国であり、なおかつ四方八方を大国に囲まれているという不利な地形状況のため、他国からの侵略などしょっちゅうである。また、公国内には険しい山や深い森など人間の手が及ばない場所も多く、そういった場所には何故だか魔物が生じやすい。ラウルは周囲を城壁で囲まれた都市であるが、それでも魔物は街に侵入を試みる。なにせ近くに未開発の洞窟があるのだ。古すぎて崩壊の危険性があるため長らく開発できずに放置されていたことが災いし、完全に魔物の巣窟になっている。そこの魔物が頻繁にラウルに襲撃をかけてくるのである。  そのたびに、ラウルは魔物どもを撃退している。膨大な犠牲を出しながら。  薄暗い裏通りを歩いていると、酒場から下手くそな歌声が聞こえて来る。この間の草原の戦いで懐が温かくなった傭兵たちだろうか。傭兵でない俺も、だいぶ稼がせてもらった。酒場からの料理の香りに食欲をそそられないこともないが、ぐっと我慢する。目的の場所があるからだ。  苔むした石壁の建物に入る。受付の女性の笑顔が一瞬で苦い顔になった。テーブルでだべっていた男たちも、俺の姿を見て不快そうに眉をしかめる。その表情を隠そうともしない。
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