第十二話 生か正義か

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 鋭二は、空中で慌てることなくベルトを腰に装着し、腰の赤ボタンを押すと、バーニアの噴射が始まった。地面すれすれで落下速度が緩まったことにより、鋭二は怪我なく着地する。  噴射を止め、辺りを見回した鋭二の視界に血がよぎった。 「そこか!」  再びバーニアの噴射を始め、その推力を足しに高速で走る。  細い道路が敷かれている二つ目の角。血が飛び散っていた。鋭二が二秒とかからずそこに差し掛かると、ブーツの右噴射によって旋回しすぐに腰の噴射を止める。  しかし、鋭二の目に飛び込んできたのは、ボウズ頭のグラサン男の死体だけだった。頭と胴体は無事だが、両手左足をもがれ、恐怖と苦痛で醜く歪めた表情のまま息絶えている。恐らく死因は失血死だろう。まるで快楽殺人のような、被害者が苦しむのを楽しむかのような殺し方だ。 「くそ!」  鋭二の頭に血が上る。すぐに辺りを見回して敵の姿を探すが、どこにもない。男の右足だけが無事であることから、敵は鋭二の気配を感じて逃げたと考えるのが妥当だ。  鋭二が下を向くと、微かに血の跡が残っていた。それは細い道路の先、小規模のオフィス街へと続いていた。そしてその足跡は通路の途中で突然消えている。 「逃がすかよ!」  鋭二は再び推力走行で走り出す。途中で方向転換し、近くに立っていた低層ビルへ近づくと、壁の前で両腰の噴射機構の角度を斜め下に変えた。そして壁を走りあがり、屋上に降り立った。  しかし、鋭二が屋上から街を見回すも既に人影はどこにもなかった。 「くっそぉぉぉぉぉっ!」  鋭二は一人虚しく、憤怒と憎悪の叫びを夜空へと放つのだった。
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