第十二話 生か正義か

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 朝の博奈高校、二年生の教室。 「先に行っとくぞ、光汰」 「ああ」  光汰は、自分の机を漁りながら友人たちに返事をする。一限目は移動教室だが、光汰は自分のペンケースがないことに気付き、探していた。 「どこいったんだよ~」  なかったとしても、近くの席の人に借りればいいだけなので、光汰はそこまで深刻に考えていなかった。 「伊刈くん、どうかした?」  光汰は背後からかけられた女子の声に振り向く。 「え? あ、弓岡さん」  光汰は少し驚いた。学校ではあまり関わらないようにと言っていたのは薫だったからだ。 「急にごめんね。もしかして、このペンケースって伊刈くんの?」  そう言ってペンケースを差し出してくる。 「おっ、そうそう、これ探してたんだよ。ありがとう!」  光汰はほっとしたように笑みを浮かべ、それを受け取ろうと手を伸ばす。  すると、薫は辺りを見回し、誰もいないことを確認してから小声で囁いた。 「昨日の深夜三時頃、また死鬼が出たって桐崎さんから連絡があったわ」 「え?」  光汰はペンケースを持ったまま固まり、薫に目を合わせた。 「くれぐれも注意するようにって言われたわ。雅人さんのときも突然だったし、伊刈くんも気を付けてね」  薫は早口にそう言うと足早に教室を出ていった。 (もしかして、それを伝えるためにペンケース隠して待ってたのかな……)  光汰はふとそう思った。  そして、光汰は一限目の授業に遅刻した。
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