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放課後、光汰が一人で帰ろうと正門を抜けると、
「コウくん」
藍が待っていた。
「あれ? 藍、どうしたの?」
光汰は目を丸くして問うた。その日は特に藍とは帰る約束をしていなかったからだ。カップルであれば、毎日二人で下校することもあるだろうが、この二人の間では予約制であった。お互いの交友関係に影響を及ぼさないためだ。
「う、うん。ごめんね急に」
藍は愛想笑いを浮かべる。なにか悩みがあるように見えた。
「大丈夫だよ。じゃあ帰ろっか」
「うん」
二人は歩き出す。
藍は、少しそわそわと光汰の方を見ては口を開きかけ、またすぐに俯くということを繰り返した。しばらく二人とも黙って歩いていたが、耐え切れなくなった光汰がようやく口を開いた。
「なにかあった?」
藍はビクッと肩を震わせた。
「え、えっと……コウくん、薫ちゃんと仲良かったんだなって思って」
「ん?」
光汰は目を白黒させる。思いもよらない話題だった。
「えっとね、一限目の授業の前、コウくんと薫ちゃんが二人っきりで密着して話してたって隣のクラスの友達から聞いて……」
光汰はダラダラと冷や汗をかき始めた。
いくら授業前ギリギリだからといって、隣のクラスに見られる可能性は十分あった。
「い、いや失くしたペンケースを届けてくれただけだって」
「あ、そうだったんだ。薫ちゃん優しいね」
藍は緊張がとけたかのように顔をほころばせた。
何とか危機を回避したと悟った光汰は、深く聞かれる前にと露骨にテンションと話題を変えた。
「そ、そうだ! 来月、遊園地行かない? 最近バイトしてお金貯まってるんだ」
あまりにもわざとらしかったが、光汰を信じている藍は気にせず、「ゆ、遊園地……」と目を輝かせた。
小さなヤキモチは、二人の関係に水を差すことなく済んだのだった。
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