第十二話 生か正義か

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「半鬼狼や死鬼と関係があるのかは、分かりませんが不可解な情報を得ました」 ムサシの会議室、姫川が神妙な面持ちで清悟に資料を渡す。時間はもう十八時を過ぎているが、姫川が外勤での調査から戻って来るや否や冷静さを欠いた様子で清吾の席まで駆け寄ったのだ。「有益な情報を得た」と。悠哉は外勤で遠方まで調査に行った後、そのまま帰宅するようになっているため、ここにはいない。  清悟は食い入るように資料に目を通し始め、そして止まった。 「交通事故にあった少年?」  そこには桜山病院に入院していた患者の名前が載ってあった。 「はい。彼は、数ヵ月前、交通事故で脊髄損傷を負っているんです。しかし、それがあるとき急に完治しています」 「しかし、それは医師の誤診だったと書いてあるじゃないか」  清悟は眉を寄せ、解せないといった様子で姫川を見つめ返す。 「ええ。そうは言っているのですが、調査したところ不可解な点が多いです。まず、当時の関係者は多くのことを語ろうとせず、まるで情報規制されているかのように、誰に聞いても同じ結論しか出てきません。それで秘密裏に当時の情報をかき集め、別の病院の医療関係者に確認しました」  姫川のその行動力と危うさに、清悟は目を見開き頬を引きつらせた。 「あまり危ない橋を渡らないでほしいものだな……で、結果は?」 「彼は脊髄損傷であった可能性が高いと」  清悟は腕を組み、眉間に皺を寄せて唸る。 「もし、少年が脊髄損傷であった場合、数日で完治して退院したとなると――」 「『オニノトキシンによる再生医療』です」 「……分かった。明日、悠哉にもこのことを話そう。で、夕方にこの少年と接触するんだ。最悪、戦闘になるかもしれない。念のため、戦闘員も何人か声を掛けておいてくれ」  清悟の表情は曇ったままだったが、立ち上がり指示を出した。 「はい」  姫川は立ち上がると、今一度少年の名前を確認した。  『伊刈光汰』の名を――
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