第十二話 生か正義か

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 少女は『涼』という名で中学一年生だった。家で両親と口論になり、家を飛び出してきたようだ。家出するつもりでいたが、少し寝たことで冷静になったと語った。今の時間は深夜の1時。彼女の両親もさぞ心配していることだろう。 「じゃあ、涼ちゃんはもう帰るのね。家まで送って行くよ」  薫は特に迷惑そうな様子を見せることなく微笑んだ。理想のお姉ちゃん像とはこのような女性なのかと、光汰は思った。 (いや、あの妹に苦労させられたんだろうなぁ)  光汰は弓岡姉妹のやりとりを想像し苦笑する。  薫は少女と手を繋ぐと、蚊帳の外にいた光汰へ振り向いた。 「じゃあ、伊刈くん。今夜のパトロールはここまでで――」  言いかけた薫の言葉が止まる。彼女は目を見開き、光汰の後ろを見ていた。  その様子に悪寒の走った光汰は背後を振り向く。 「…………」  ゾウの形をした滑り台の上に死神がいた。否、鬼の髑髏の仮面を付け焦げ茶色のマントを夜風にはためかせた『死鬼』が。その紅い瞳はじっと光汰を睨みつけている。 「涼ちゃん、逃げて」  敵から目を逸らさずに、緊張感を孕んだ声で薫は言った。 「え?」  少女は状況が分からず、混乱している。 「ごめんなさい。お姉ちゃんは用事ができたから、すぐに帰って」 「う、うん」  有無を言わさない薫の切羽詰まった声に涼は従った。  異様な寒気を感じながら逃げ出すように走り出す涼。 「――っ!」  突然、死鬼が跳んだ。  その着地点は、涼の進行上。 「くっ! 待て!」  光汰が慌てて走り出すも距離は遠い。 (あいつ、自分を見た相手は必ず殺すようにしてるんだ)  光汰もしかり。雅人が倒れた夜、駆けつけた光汰は死鬼の標的となっていたのだ。 「い、いやっ!」  正面から涼へ手を伸ばす死鬼。  間に合わない光汰。  しかし、
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